1996年11号

「東アジアの持続可能な発展に関する リージョナルワークショップ」 開催報告

 平成8年10月2日~4日に、東京のアルカディア市ヶ谷で、海外からの招聘者14名を交え標記ワークショップを開催した。以下に各セッションでの発表概要を報告する。

基調講演

(東京理科大学教授 森俊介)
(10/2 9:30-10:00)

 東西間の冷戦が終わり、ようやく人類全体が平和の中で豊かな社会に邁進できる時代が来たかに見えた。しかし、東西間対立という暗く重い雲が晴れた時、私たちが見たものは決して争いのないバラ色の楽園では無かった。地球上に南北間、国家間、地域間、民族間という様々な種類の格差が存在していて、それらが新たな社会の不安定性を生み始めていることに気付いた。また、その様な同時代の空間的な不公平性だけでなく、自分たちの行動が将来世代を脅かすという時間的な不公平性の存在にも気付いた。この様な不公平性を固定化あるいは放置することは決して正義とは言えない。開発も環境も必要であり、両者は不可分である。そして、この様な二者択一的な問いを超えた道を探さねばならない。持続可能な発展とは、私たちが現世代だけでなく将来世代も確実に生きていくための、環境と開発の共生の道を探るテーゼとして合意された概念である。しかし、持続可能な社会を構築するためには、時間的にも空間的にも相互に複雑に絡み合っている資源問題、地球環境問題、人口問題、食糧問題、エネルギー問題、都市問題、高齢化問題など数多くの課題を解決する必要がある。私たちは、決して無力ではないことも認識する必要がある。私たちは、強力な武器を2つ手にしている。一つは「技術」である。資源の消費を抑制し、環境を守りつつ必要な財を手に入れるための多くの技術を手にしている。省エネルギーや環境保全の諸技術には、まだ成すべき課題と普及の余地が十分残っている。そしてもう一つの武器は「協力システム」である。これは、第一の武器を活かすためにもより重要な武器である。国家間の技術移転や共同実施のシステムや地域内での廃棄物のリサイクルシステム等を円滑に機能させるためには、この社会的な協力システムが不可欠である。市場メカニズムの競争も、自由市場のルールを守るという協力システムが無くては有効に機能しない。このワークショップでは、東アジアの各国が抱える課題を明確にし、今後どの様な対策を採るべきかを討議することにより、持続可能な社会の実現に一歩でも近付くことを目標にしたい。


セッションー1
「持続可能な社会実現のための展望と障害」

(10/2 10:00-12:20)

中国
 (Prof. S.Cheng, Chinese Academy of Sciences)
 持続可能な社会を達成するためには、先進国では環境と資源が、発展途上国では経済開発が課題である。中国については、(1)人口と資源(特に土地と水)、(2)所得格差、(3)環境汚染、(4)都市への人口流入等を解決する必要がある。これらの解決策として、現在、(1)貧困の解消、(2)人口抑制、(3)エコロジカルな原則の経済活動への導入、(4)人々の参画を進めている。

インド
 (Mr. P.Sengupta, Planning Commission, Government of India)
 発展途上国では発展が非常に重要であり、インドではこの数年になってようやく環境への配慮ができるようになった。インドでの課題は、(1)人口増加、(2)貧困、(3)土地の劣化・食糧生産、(4)エネルギー需要の増加等である。これらの問題を解決するためには、発展が必要で、6~7%の経済成長が達成されれば、人口問題、貧困問題の解消にも成功する。この他、初等教育、健康問題、食糧問題への対策、国際協力の強化が必要である。

インドネシア
 ( Dr. S. A. A. Suprapto,University of Indonesia)
 インドネシアでは、森林問題の重要度が高い。森林の破壊により、ジャカルタでは洪水が増えたり、河川の汚染が進んだ。特に、海岸地域の貧しい人々は、海岸地帯に塩害が発生したため、水を買うのに所得の1/3を費やさねばならなくなった。マングローブ林にも大きな影響が出た。森林そのものも被害を受けた。このため、現在は、食糧問題と森林問題がバッティングするというジレンマに陥っている。

韓国
 (Dr. H. Jeong, Korea Environmental Technology Research Institute)
 韓国は、過去急速な経済成長を遂げたが、大気汚染をはじめとする深刻な環境問題に直面 している。昨年、政府は長期環境計画“Sustainable Korean Society”を発表した。それには、(1)環境予防保全の原則、(2)環境と経済の両立の原則、(3)市民の参画の原則、(4)汚染者負担の原則が盛り込まれている。具体的には、(1)適切な生活環境の保全、(2)自然環境の保全、(3)世界の地域環境保護への協力、(4)環境改善支援システムの確立を行っている。

マレーシア
 (Ms. O. Yong, PE Research Sdn Bhn)
 自分たちの祖先は、森林や自然資源に敬意を払ってきた。このような人々にとっては、持続可能性とは、社会が土地に根ざしていることであった。しかし、現在のマレーシアでは、森林破壊や大気汚染のため、森林や土地に依存して生きている人々が脅かされている。この原因の一つとして、州と政府の権限の二重性がある。また、国民(特に女性と貧困層)の参加が少ないことも原因となっている。

台湾
 (Dr. S. Tsao, Environmental Protection Administration)
 台湾の環境汚染は1970年代から深刻化した。台湾では、自然環境保全、環境基準の維持、持続可能性の達成を目標とした環境ガイドラインを1987年に作成した。これには、エコラベル、環境影響基準、廃棄物利用、自動車大気汚染対策費用等の施策が設定されている。台湾特有の背景として、人口密度、製造業の密度、自動車の密度等が高いことが挙げられ、環境改善のための負担は今後も増加すると予測されている。

タイ
 (Dr. D. Phantumvanit, Thailand Environment Institute)
 タイでの過去の開発は持続可能ではなかった。自然資源に関し、森林は減少傾向にある。しかし、タイ政府は環境保全のために予算を確保した。当面 は、汚染回復のために予算が使われるであろう。環境保全のためには国際協力が重要である。APECはその良い機会である。自分たちは、タイ、特にバンコックの現状は好ましいものでないにせよ、今後には楽観している。これは、現在も経済成長が続いているためである。

日本
 (GISPRI専務理事 清木克男)
 日本は、エネルギーや食糧の自給率から分かるように、元来持続可能な国ではない。従って、貿易を通 し、地域的な持続可能性に頼らざるを得ない。環境技術協力などで地域に寄与することが必要である。国際協力のスキームの構築は大きな課題である。また、日本では、住民参加、情報公開の進展に伴って、地方の利益と国家的利益の対立が時々見られる。この調整メカニズムの構築も大きな課題である。


セッションー2(2)
「開発ビジョンとその展望-産業開発と環境保全」

(10/2 13:00-17:30)

インドネシア
 (Dr. S. A. A. Suprapto, University of Indonesia)
 東アジアの各国は一次産業から製造業の移行により経済発展の軌道に乗った。しかし製造業の発展に伴って廃棄物の質が多様化し、量 が増大した。現在は多数の環境対策を漸次導入している過程にある。従って東アジア各国の環境対策はMarket Based Instrumentsの長所を考慮しながらもRegulation Instrumentsで対応せざるを得ないと考えている。インドネシアでは森林産業は非石油財による外貨獲得の約18%を占める。特に、Plywoodはその中の約70%を占める。この産業の特殊性から、35年のサイクルを待たずに不法な伐採が発生している。韓国、台湾、日本等は輸出の72%を占めているが、環境に敏感でない国への輸出が増加している傾向がある。ヨーロッパのように環境に敏感な国へは輸出が伸びていない。皮革産業、繊維産業、染色産業のいずれも水需要が高く環境との関連が深い。漁業では、エビが中心となっており環境に敏感である。消費者(特に日本)のライフスタイルを変えることは容易ではないが、このことを意識すべきである。なぜならば、エビの頭のゴミは年間40,000tにも達する。

タイ
 (Dr. Q. Limvorapitak, Thailand Environment Institute)
 タイの産業ごとのシェアの推移を見ると、1980年代は食糧生産が最も貢献していたが、現在は鉱産物や電機製品、自動車に代わってきている。タイでは、これらの工場を郊外に造った。1995年には205のプロジエクトがあるが、半分は農村部に、1/4はバンコク郊外に作られている。これらの工場からは有害廃棄物が発生する。1969年には工場法ができ、次いで環境法もできた。1986年には様々な規制が導入された。ここまでが環境管理の第一段階である。1992年には国家環境保護法ができ、環境改善の時代である。現在はどの様な手法を使うかという時代に入っている。タイの5ケ年計画では、PPP(汚染者負担の原則)が取り入れられる。地元企業と多国籍企業との協力体制を作ることも含まれる。

マレーシア
 (Mr. G. Singh, Environmental Protection Society of Malaysia)
 マレーシアでは、8%近くの経済成長が続いているが、この急速な経済成長に伴って、電力や労働力が不足する傾向にあり、騒音、大気汚染、海洋汚染、有害廃棄物等の環境問題も発生してきている。このため、1984年に公害規制が始まり、環境関連の法制度の整備、環境アセスメントの実施、民営化の活用、廃棄物処理場の建設等が行われてきた。しかし、一般 的に社会の関心は高い経済成長の継続に集中している。このことは、マレーシアの2020年ビジョンや第7次計画にも表れている。第7次計画では、マレーシア経済の輸入代替型から輸出志向型への転換を中心に、高付加価値化、大企業化、多国籍産業の育成、そのための外資や技術の導入、民営化、工業団地の整備、産業間の連携強化、社会の安定化のための地域間・民族間・産業間の所得分配の公平化等がうたわれているが、環境に関する記述はあまり多くない。その他、中央政府と地方政府の管轄問題、具体的な実行手段の欠如、環境政策の不透明性、民営化に伴う独占の弊害の発生、市民参加の欠如等の課題もあり、環境問題への取り組みは遅れている。


セッションー2(1)
「開発ビジョンとその展望-地域経済開発と地域間格差」

(10/3 9:30-11:30)

中国
 (Prof. S. Cheng, Chinese Academy of Sciences)
 1950-1970年代の中国は、中央政府による統制経済のため、各地方のバランスが重視されていた。このため、地域間格差はほとんど問題にならなかった。しかし、国としての経済発展を目的に、1978年に改革路線が採用され市場経済が導入された。これは、経済的な効率性を追求するもので、地方分権化による競争原理の導入によって、地方ひいては国の経済成長を促進する政策である。この分権政策は、金融・財政・投資政策の全てにおいて行われた。当初は中央政府による優遇処置もあったが、経済的に投資効率の優れた東部の沿岸地域は著しい経済発展を遂げた。しかし、この副作用として、中央政府の指導力は相対的に低下し、中・西部の内陸地域との格差が拡大した。このため、1994年に、中央から地方への交付金の適正配分等を目的とした、中央と地方の役割についてのガイドラインを作成した。また、1996年に決定された第9次5カ年社会経済開発計画では、中・西部に経済地域を設定する為、内陸部の開発に重点を置いている。具体的には、内陸部の資源を活用し、合理化により、内陸部として自立できるようにすることである。

インド
 (Dr. R. K. Pachauri, Tata Energy Research Institute)
 持続可能な社会を構築するためには、貧困の撲滅が最大の課題である。持続可能な開発は環境保護だけを目指すことではなく、人々のニーズを満たすことである。インドでは農村の貧困層が都市に流入し、都市にスラムを形成した。現在のインドでは、先進国が過去に歩んだ工業化による発展に対し、農村地域の開発をより重視して考えている。最近では農村地域に改善の兆しが見られる。雨水に頼っていた地域も科学的方法が導入されつつある。現在、少しずつではあるが輸出もできるようになり、また農業交易の条件も良い方に変化しつつある。しかし、従来の政府の農業部門への支出はあまりにも偏っていた。農業の育成を目指すことはそれ自体誤りではないが、それらは必ずしも生産性向上ではなく、補助金もあった。今後は、農業が儲かることを意識させる必要がある。しかし、これは、地方の機関、人々が力を持った場合のみ成り立つ。補助金は意図されない使い方をされるとマイナスにもなる。住民の意思決定への参加があれば、この問題は避けられよう。先ほど、中国からも報告があったように、中央集権から地方分権への流れは重要である。将来の道を開く。高いレベルの発展が期待できるし、貧困の撲滅も可能であろう。


セッションー2(3)
「開発ビジョンとその展望-廃棄物とリサイクル」

(10/3 13:00-14:30)

台湾
 (Dr. Y. Chen, Environmental Protection Administration)
 台湾では、産業廃棄物の約52%が再生可能であるが、約22.5%がリサイクルされているに過ぎない。また、家庭から発生するゴミは、約50%が再生可能とされているが、鉄、アルミ、ペットボトル等約8%が再生されているに過ぎない。この原因は、(1)「ゴミはゴミである」という誤った考え方、(2)産業ゴミの分別 等のリサイクルシステムが確立していない、(3)リサイクルセンターの不足、(4)リサイクルされた財の質が劣る、(5)原料の効率的使用のための技術やクリーンプロダクション技術が不足などが挙げられる。このため、現在は、産業が費用を負担してリサイクルセンターにゴミを送り、リサイクルに参加した主体に補助金を出す等のシステムでリサイクル率の向上を図っている。その他、LCAの普及、再生材利用の推奨、ゴミ処理ネットワークの構築、クリーンプロダクションの技術開発支援を強化。財政的インセンティブの付与が必要。


セッションー2(4)
「開発ビジョンとその展望-持続可能な国土利用とその限界」

(10/3 14:50-16:50)

韓国
 (Prof. D. Lee, Sangmyung University)
 韓国の国土開発計画について述べる。最初の計画は1972-1981年で国土利用の効率化であった。1982-1991年の開発目標は、開発可能性を向上させること、すなわち国土資源の保全であった。第3次計画では、地方分散化のフレームワークを俎上に上げた。この時の評価としては、過去30年間の国土計画の結果 、ソウルに端を発する南東方向へのベルト地帯ができた。この間、住宅数が2倍になり、面 積も増えた。下水は1993年には40%まで伸びた。この様に環境問題の画期的改善がなされたが、国土が急激に開発されたため、問題も発生した。国土に対する環境負荷が異常に大きくなった。地域間格差が現れるようになった。ライフスタイルに利己主義が現れ始めた等である。従って、現在の開発目標は、国土環境容量 の改善を開発を通して実現することとなっている。国土環境の予防保全を強調しており、人間と自然の共生が可能となる国土政策を検討している。現在環境評価院を作ることが話題となっている。Taejeon市をエコポリスに近づけるための具体的な提案がなされている。自然との共生が強調され、河川を自然河川に戻したり、ソーラーハウスの導入が提案されている。建物の壁に植物を植えたり、モノレールの導入なども検討されている。

日本

 (宇都宮大学教授 古池弘隆)

 日本にも、前の韓国と同様に、過去30年間に4つの総合開発計画を作った。その共通 概念は、人口集中の防止、地域格差の是正である。現在のアプローチには、新しい概念がある。地球環境問題、特にアジアの環境の重視、高齢化、及び情報化である。過去25年間の人口の推移を見ると、ピークは2010年頃で、ここから急速に減少する。高齢化も急速に進む。この様な状況に基づいて、次の総合開発計画が検討されている。計画策定の段階で市民が参加することが重視されている。アジアの近隣諸国との関係が重視されている点も新しい。自国だけで行動をとることは困難であろう。私の専門の土木工学でも、地球環境のための行動計画を作った。安全で快適な環境を作ることを目的としている。具体的には、(1)枯渇性資源の利用の削減、(2)環境影響の分析(環境アセスメント)、(3)環境対策の評価、等である。自分達がやるべきことは何か。パラダイムシフトと考えている。需給にインバランスがあるとき、従来は供給側を拡大してきた。しかし、新しいアイデアは、供給の拡大は最小限とし、需要側を減らすこと、すなわち支点をずらすことである。


特別講演
「東アジアの持続的成長の可能性と限界」

(明治学院大学教授 竹内啓)
(10/3 17:00-17:30)

 私は、具体的な話ではなく、一般 的な概念を話したい。一般の市民の関心を喚起することは重要である。しかし、最近はやや懸念を持つようになった。経済的な成長と環境保全が相反するものであるという悲観的な考え方が大きくなってきたと思われるからである。地球環境を守るために、いっさいの成長を否定する考え方があるように思われる。しかし、環境問題のために経済成長を抑えることは、特に発展途上国の貧困の現状を考えると意味がない。先進国では、自然環境を保全することばかりに注意が行きすぎるように思われる。どのような社会であっても、その目的は、社会の好ましい状況を作り出し、これを維持することである。自然環境を保全することは、社会環境の一つの側面 に過ぎない。人間よりも自然が第一であるという考え方があるが、それには同意できない。我々は人間であることをやめることはできない。人間であることを忘れ自然のことを考えることはできない。我々に必要なことは、持続可能な成長の中に、自然保護を位 置づけることである。環境問題には、2種類ある。一つは、短期的でかつ対象が明確なものである。もう一つは、長期的で原因を特定できないような性格のものである。地球温暖化などのグローバルな環境問題は後者に属する。人々によって、費用をかけることが認められるなら、環境問題は解決できる。日本の公害防止への経験は、人々がそのような姿勢になるなら解決が可能であることを示している。様々な問題があるものの、環境と経済成長は、その意味において、相反するものではない。もちろん、経済第一主義を採ってはならないが、経済成長があって初めて金をつぎ込み、また環境を守る意思も生まれるのである。地球温暖化問題についても、CO2排出を減らすことは重要である。しかし、あまりにもCO2排出量 の削減に固執して経済成長を抑えれば、気候変動に対処できる体力を失わせることにもなりかねない。責任が誰にあるのかについて様々な議論もあるが、これがもとになって国際紛争でも起こるならば、それこそ悲劇でしかない。すなわち、我々に課せられた最も重要な課題は、社会経済構造を持続可能な形に変革していくことである。例えば、自動車の問題を考える。どの国でも台数は急激に増加している。しかし、現在の社会経済システムがこれに則ってできあがっている以上、無理やり自動車台数を削減するのではなく、これを必要としない社会経済システムに変革していくことのほうが重要である。最後に、人口問題を強調しておきたい。人口は環境負荷に密接なつながりを持つ。しかし、人口は人であるのだから、働き手がいるということである。これを効率的に使うことが重要であろう。これを環境保全に使わねばならない。その意味で、近代技術開発のオリエンテーションを変える必要があると考える。国際的な市場環境の中でいつもその方向性は、労働生産性の増加で語られる。省力化、自然資源の消費の方向すらある。それより、労働集約型の技術に目を向けるべきである。経済を見る際、資本と労働と自然(観光・資源)という投入要素がある。一番欠けているのは自然であり、余っているのは労働である。経済学の議論では、余っているものを多く投入し、少ないものを節約する。今の経済発展は、この逆を行っている。環境と経済成長は、二律背反でなく、共存の道を探すべきである。


セッションー3
 「東アジアの持続可能な社会実現のために実行すべき課題」

(10/4 9:00-11:30)

アメリカ
 (Dr. A. Hammond, World Resources Institute)
 持続可能な開発のためには、何より安定した社会が必要である。しかし、特に都市部の人口増加が著しい東アジアでは、社会の不安定要因となる国間、地域間の所得格差が拡大傾向にある。所得格差による影響を低減するためには、資本のサイクルのためのメカニズムが必要となる。例えば、ODA、直接投資がこれに当たる。しかし、これらは増加しているものの、地域的に偏っており、特に農村部に遅れがみられる。一方、天然資源に関しては、消費量 は減少していないが、真の資源枯渇の危機に瀕している訳ではない。探査技術の向上等により埋蔵量 はむしろ増加している。問題は、特に発展途上国の水、土地等の再生可能資源の劣化である。これをサポートするシステムも遅れている。水、土地の劣化により人々は移動する。これは社会の安定性に対する脅威となる。助成金による再生可能資源の増強は、過去あまり役に立っているとは思えない。この様な天然資源の劣化をくい止め、かつ雇用問題を改善するためには、労働力の使用に対する税ではなく、資源の使用に対し税を課すべきと考える。ここで、情報革命の意義を考えたい。これは、将来世代からは産業革命に匹敵する大きな社会の変化と捉えられるであろう。公害その他の環境問題に関する議論から、多くの知識が得られた。Global Teenagerという言葉がある。2000年までに、20億人のTeenagerが世界に現れる。家族の構造が変化し、これに合わせグローバルな協力、情報の登場により、政府の役割は低下するであろう。地元、地方分散の傾向が強まろう。2050プロジェクトでは、人々の考え方の大きな変化が情報革命により生じると考えている。アジアにおいての重要な問題は、「成長の管理」である。家族構成が不安定化し、効率的政府も不確実化する。ここでは、次の2点をキーとする。(1)環境保護条約の締結は、先進国の技術供与が高まる良い機会である。(2)情報公開による多国籍企業への「規制」により、地元が参加でき、対立でなく協調の構図が生まれる。

アメリカ
 (Dr. J. Steinbrunaer, The Brookings Institution)
 冷戦終結以降、様々な対立が生まれた。持続可能な成長は、この様な対立の構図の中で生き残れるであろうか。新しい国際協調のパターンが強化されねばならない。従来とは全く異なった体制が必要とされる。これには、人口と情報が要件である。広い範囲での変革は、アジアで生まれるのではないか。例えば、大きな影響力を持つと考えられる中国とインドのエネルギー開発においては、どの様な開発のパターンが生まれるか。十分な技術と資金が必要である。しかし、市場の動向を見ると、正しい方向へは向かっていないのではないかと思われる。具体的問題として、危険物質の管理を上げる。プルトニウムの他にも、高度な管理が必要な物質は多い。生物系への影響が心配される。このためには、情報開示が何より重要である。水資源の開発や、冷戦時代の名残にどの様に対処するかも重要である。特に重要な問題として、米、中、日の今後$NATOの拡大、特にこれはアジアの重要なプレーヤーであるロシアを圧迫する危険がある。また、朝鮮半島の冷戦時代の名残も注目せねばならない。北朝鮮が対立を望んでいないとすれば、対応は可能であり、新しい体制に期待したい。今後、さらにインド、ロシアの力をどのように活用するかが対立から協調への構図の中で重要であろう。


討論総括

(慶應義塾大学教授 茅陽一)
(10/4 11:30-11:50)

 全体として、貧困からの脱却と環境汚染対策が論点となった。経済の中で環境をどう取り入れるか。これは、経済の言葉では外部経済の内部化と表現される。そこで、経済+環境を考える。まず、環境保全投資は経済にプラスかマイナスか。これは、過去の日本に例がある。1960-70年代は、公害対策投資は経済にマイナスであるという議論が圧倒的であった。1980年代に入ると、これらの投資はマイナスとは言い切れないという議論が増えてきた。アジアでも同じかどうか。これは経済構造に依存するので簡単ではない。しかし、環境対策への真剣な取り組みが技術開発を生む点は強調したい。日本の自動車技術はこの好例である。技術屋は、制約が厳しいほど熱心になるものである。経済発展と環境保護は両立すると結論づけたい。評価としてのLCAの重要性も強調したい。発展途上国ではまだあまり関心が持たれていないようであるが、重要である。no-regret strategyはアジアでも取り入れてほしい。最低何を取り入れるか。効率的エネルギー使用技術と効率的バイオマス使用技術を取り上げたい。「適正技術」という言葉は、しばしば先進国の中古技術と誤解され、途上国で評判が悪い。しかし、新しい風土にあった技術開発も要請される。例えば、節水型クリーン石炭利用技術をまず上げたい。日本では水が比較的豊富だったため、節水型の技術があまり発達しなかった。しかし、石炭のクリーンな利用においてこの技術開発の重要性は高いはずである。バイオマス利用技術も同様である。日本を始め、北側ではあまり開発されていない。ハワイには、アジア太平洋先端技術移転センターがあり、ここでバイオマスのガスコンバインドサイクル発電技術が研究されている。この両者はいずれも従来にないもので、今後アジアで重要な技術となるであろう。

(文責 事務局)

 

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